金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

飜訳会社への応募条件②―TOEIC900点、そんなに大変か?

一昨日の書き込み(このブログに書いたものとほぼ同じ内容)の後、私は次のやや刺激的な投稿をお友だち限りで書いた。

①「私は英検1級持っていますが、トライアルに全然受からないんです」という話は聞いたことがない(ちなみに僕は英検1級を取って独立した1年目の合格率は5割ぐらいだった)。

②「何回トライアルを受けてもちっとも受からないんです」という人がいたら尋ねたい。「あなた英検1級?TOEICなら900点取ってる?取ってない?ならまず英語の勉強だろ」「トライアル何回受けた?『ちっとも』なんて副詞は少なくとも10回や20回落ちてから言っておくれ」

わざと刺激的に書いたものではあるが、本音です。すると予想通りいくつか質問というか疑問点が出された。私も「翻訳 英語力」で検索していくつかHPを見た。そこで理解した僕の意見に否定的な意見のポイントを整理すると、

(a) TOEIC900点や英検1級に通ってもプロの翻訳者として全く役に立たない。TOEICや英検では翻訳に必要な能力が測れない。

(b)TOEIC900点や英検1級を取得する努力は、仕事が取れる翻訳者を目指すという点からは「無駄な遠回り」である。

ということではないかと思う。以上の(a)(b)に対する私の見解は以下の通り。

(a)はまさにTOEIC900点や英検1級はプロの翻訳者になるための必要条件に過ぎないと言っているのに等しく、当然十分条件ではない。つまり僕が元々書いた(飜訳会社の応募条件)主張そのものである。

僕自身、金融英和翻訳の翻訳をしたいという方の履歴書を読み、トライアルの文章を読んである仕事に適切かどうかを判定する仕事をしたことがある。また最近は超有名大学を卒業して外国暮らしも長いという触れ込みの方のある経済論文の翻訳を拝見した。

全然ダメでした。使えない。

でも僕は、だからといって金融翻訳者に英語力は不要だとは言わない。金融翻訳という仕事を覚え始めるにあたって900点程度は必要だと思う。前回の書き込みの趣旨はそういうことだ。

(b)の主張を読むと、TOEIC900点や英検1級を取ることがとてつもなく大変な労力であることが前提となっている。果たしてそうなのか?僕は英検1級を取ったのが20年近く前(独立直後:2カ月ほど準備勉強しました)なので、ここではTOEIC(3年半前に950点―ただし問題文に書き込みをした=これはルール違反だと言うことを試験後に知った―のでやや割り引く必要あり。下の参照先をご覧ください。その数カ月後にルール通りに受けたら890点でした)に絞って話をしておく。

TOEIC900の英語レベルなんてぜーんぜんたいしたことはない、だからTOEIC900点を取るための勉強なんてさほど大変ではない。

というのが結論だ。

自分の実感に基づくTOEIC900点のレベルは、読解力は

・新聞を普通に読めるレベル(読解力は分野によっては日本語よりかなり落ちる場合がある)。
・TIME誌は辞書を持っていればまあ、読める(内容によっては厳しい)。
・自分の専門分野であれば、業務に関する資料や伝達事項はもちろん、かなり高度な論文も、ほぼすらすら読み理解できる。

読解力以外の一般的な英語力としては

英米の見知らぬ土地に行ってそこに書かれてある看板や雑誌や電車/バスの時刻表をきちんと読めて、よほどのことがない限り普通に生活できる。
・仕事も相手と1対1ならば普通に話しながら進めることができる。電話もこちらが日本人であることを分かっているネイティブ相手なら普通に意思疎通できる。
・自分の専門分野に関してはネイティブ相手に交渉もできる。
・会議も、日本人が参加していることを分かっているネイティブに少し気を遣ってもらえればわかるが、ネイティブ同士のフランクの会話にはシンドイ。
・講演会等も資料があればまず大丈夫。

要するに、「英語圏で普通に生活し、仕事をできるレベル」「普通の英語を普通に読み書き聴き話せる」というレベルだ。なおここで普通に「書ける」「話せる」とは、稚拙でもとにかく通じることを意味する。「普通に聴ける」とは、ネイティブ人同士の会話に入っていくのは厳しいレベルである。これがいかに「低いか」はTOEIC900前後の皆さんはよ~くお分かりではないかな。

そのレベルになるための勉強がそんなに大変なわけないじゃん。

確かに学生時代から英語嫌いで、あるいは英語が得意でない人にとっては非常に高いバーだろう。でもね、「翻訳者になろう!!」って思っているということは英語がすでにそこそこ、というかかなり得意なはずだ。その気になって半年も真剣に勉強すれば(プロになろうと思っているぐらいの人であれば)「だ~れでも」取れるというレベルというのが僕の見立てです。

え、たかがそのレベルに達するための数カ月の努力が「大変」でプロになるための道からすると「遠回り」に感じる?

僕から言わせれば、そう思った方は、その時点で「語学で飯を食っていく資格なし」でござる。

 

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