金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

「当社のホームページを英訳して下さい」:ホームページ翻訳(和文英訳)から見えてくるもの③)(2020年11月)

「当社のホームページを英訳して下さい」

と依頼してくるお客様に抜けがちな視点が二つある。

①英訳する英文のほとんどは「翻訳」としてではなく、英米人の読者向けの会社のメッセージだという点。したがって、内容によっては「英文の元となる日本語」の修正を求める場合がある。

わかりやすいのは「令和という新時代を迎えるにあたり・・・」のようなトップメッセージだ。これをそのまま英語にして堂々と掲載している会社は少なくない。"Top message"と" Reiwa"の2フレーズでGoogle検索してみると、上場企業も含めたくさん見つかるはずだ。はっきり言ってこれは相当格好悪い。英語が立派であるほどかなりみっともないことがわかるはず(翻訳業をしている私からすると、この文章を訳した翻訳者は、そのオカシサに気づかなかったのだろうか?とセンスを疑うのである)。
いきなりReiwa・・・と出てきても外国人の読者には何のことかわからないので、(a)別の表現にするか、(b)「令和」の解説をつける必要があるが、これは「翻訳」ではなく英米人読者向けの社長メッセージなので、(a)を提案すべきだ。理屈では(b)もあり得るが、そんなことをすれば、その会社の社長の超ドメス度を示していることになるのでお勧めしない。

とは言っても元々の原文の日本語メッセージを変える必要はない。日本人向けの日本企業のメッセージとして十分成立しているからだ(もっとも、経営者に国際的なセンスが少しでもあれば、日本語で最初のメッセージを発するときから外国人の読者も意識した文章にするはずである)。提案するのは英語を必ずしも理解できない(日本人の)お客様(=翻訳の発注者)のための「こういう内容の英語にしますよ」という日本語原稿だ。

②「この原文は元々日本語であって、この英語はその翻訳にすぎません」というヘッジクローズをつけておいた方がよい文書がある、という点。

これは契約書等でよくある表現で、例えば「本契約書の正文は英語であり、日本語は翻訳にすぎない。英日の間に内容の齟齬があった場合には英語が優先される」といった表現は同業者の方にはおなじみだろう。
企業が提供しているサービスの利用規約などがこれに当たる。本来は弁護士を使って英米人向けの利用規約を作るのが筋なのだが、時間的に間に合わない場合がある。日本語のまったくわからない利用者向けに「ないよりはずっとまし」と当座の文書として用意する可能性は十分ある。
しかしこうした体裁の文書は利用者からの訴訟リスクがあるので、ヘッジクローズをつけておかないとマズイ。

以上のようなことをお客様にアドバイスするのも翻訳者の仕事である。いや、ホームページ翻訳を受注した当初の頃は自分が訳して、ネイティブチェックをしてもらっていて、当時のネイティブスピーカーからの指摘を元に気になって申し送り事項になっていたものが、意外と喜んでもらえたので、というのが正しいかな。最初からネイティブスピーカーに訳してもらい、自分がPMに徹するようになった後は、むしろこうした点のアドバイスをすることが重要な仕事と思うようになった。

何しろ、ここまで数社(複数の上場企業を含む)の僕の経験では、こういうアドバイスをしているIR会社、翻訳会社は(お客様に確認してみると)皆無なのである。 

*「我が社のホームページを英訳、ではなく英語のメッセージ発信ページにしたい!」と思ったあなた、私宛にご連絡を。日本語で書かれた貴社のホームページを最高の形で英米人向けページに変えて差し上げます。(少人数でやっておりますので時間はかかりますが)。touch-sz( )flamenco.plala.or.jp(()の部分は@)ご連絡を!

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