金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

「オンライン授業で講師をやって気がついたこと」

 

「2020通訳翻訳フォーラム」で講師をやらせてもらって気がついたことを記録のために書いておく。それは、「オンライン授業の場合、講師側には生徒の代表としてのモデレーターが必要ではないか」ということだ。

私は時たま何か話をしてくれと頼まれると①資料を用意し、②原稿を作り、③リハーサルをするのを常としてきた。本職が講師ではないのでこういう場に慣れていないからだ。

今回の場合は、初めてのオンライン授業だったので(a)講師の側でZoomを使う練習をしておく必要がある(私はハイテク音痴)(b)教室型とは異なる資料の見せ方があるかもしれない、そして、(c)見せ方が変われば用意する資料も自ずと異なるだろう、ということには最初の段階から気がついていた。本番が8月30日(日)だったので、7月10日に講師側のZoom操作のための打ち合わせ(1時間)をZoomで、8月26日(水)にリハーサルの時間を設けてもらうよう司会の蛇川真紀(通訳者。日本会議通訳者協会理事)さんにお願いした。

(1)1回目の練習でわかったこと。
目的は、Zoom操作に慣れること。準備を始めて3週間段階での資料を蛇川さんに見てもらいながら「こういう物を用意しておこうと思っている」と説明しているうちに、参加者の皆さんに見せる資料とは別に、画面を切り替えることでURLを直接見てもらえることに気がついた。使える資料の幅が広がったのである。さらに、資料はワードでもスクロールしていけば使えるが、やはりページ毎に区切ったり、前に話した部分に戻ったりするにはパワーポイントを使うのが(ハイテクが苦手な僕には特に)有効だとも認識した。

(2)2回目の練習(リハーサル)で気がついたこと
オンラインかどうかは別として、講義に慣れていない者が講師をする際には原稿を用意し、事前になるべく本番に近い環境下でリハーサルをすることがどうしても必要だ。この点の有効性についてはここでは触れない。私は元々その目的でリハーサルをお願いしたのだが、当初想定していなかったオンライン授業の問題点に気がついた。それは、受講者の反応がわからないということだった。

蛇川さんには気がついたことがあったら遠慮しないで僕の話に割り込んで気がついたことを指摘してほしいとお願いしてリハーサルを始めた(リハーサルなので当然時間を計りつつ進めたが、割り込んでもらうときにはタイマーを止めてもらった)。

マーケットのグラフを示すURLを随時示しつつ用意したパワーポイントを見せながら話を進めていくと「鈴木さん、今グラフ映っていません」「鈴木さん、資料(ほとんどが文章)映っていません」という指摘をたびたび受けた(僕は3画面で仕事をしており、自分の使う資料を真ん中に置いて参照資料を両側の画面に配置して参加者の皆さんに見せる画面を随時指定しているのだが、参加者の皆さんには1画面しか見えないのでこういうことが起きる)。あるいは「今の部分は、資料を見せると受講生は読んじゃうので、(別画面の)グラフを見せながら資料をお読みになった方がいい」という指摘も受けた。30分たったところで止めてみると、資料の3分の1しか進んでいなかったので、急遽予定を1時間半から2時間に延長してもらった。リハーサル自体はここで止め、あとは気になった点を指摘してもらった。

その後、僕の作った資料を蛇川さんに送ってコメントを書いて返してもらった。彼女は金融の専門家ではない。だからこそかえって、このコメントのおかげで資料のどこを直せばよいか、話の力点をどこに置けばよいかが明確になり、資料の4分の1ぐらいを削除し、3分の1ぐらいを入れ替えた(つくづくパワポにしておいてよかった)。

(3)本番前に蛇川さんにお願いしたこと
リハーサルの時と同じく、受講生が見ているものと私の話がズレていたら遠慮なく話に割り込んでくれ、とお願いしておいた。本番では何度かそういう場面があった。

以上が「オンライン講師初体験」の経緯である。教室で参加者の皆さんを前にしてやる場合には、皆さんの反応を見ながら調整できるのだが、オンラインではそれは無理。そこで蛇川さんに「参加者代表」をお願いして少しでもその「すき間」を埋める努力をしたわけだ。ここまで考えてそうしたわけではなく、結果としてそうなった、ということである。

ちなみにオンライン講義を学校でする場合、受講生数人をあらかじめ「お邪魔様係」に指名しておいて、授業中に気がついたことがあったら何でも言ってもらう役をお願いしておけば、少しでも受講生と講師のすき間が埋まるのではないだろうか(高校や大学であれば順番制にしてもよいだろうし、授業の前半、後半で二人という方法もあるかも。技術的なことはわからないが)。

オンライン講義の生徒側は気楽だな、と昨日思って昨日「たとえば受講生としての僕は自分の最もリラックスした姿勢で講義に集中できるのでオンライン講座の方がよいけれども、若い学生さんの場合には周囲の『熱気』や『息づかい』『やる気』『姿勢』が重要ではないかな。その意味で教室での講義の重要性が高いような気がする」という書き込みをした。

オンライン講義やオンライン勉強会に何回か受講生として参加しているうちに、私のようにある程度の年齢に達し、参加するモチベーションがすでに明確にある人間にとっての「オンライン講義」では、周囲の環境に惑わされない方が気楽だ、ということを感じるようになった。

それに比べて「モチベーションを高める」ことも教育目標に入る学生向けのオンライン講義は厳しいだろうと思って書き込みしたのだが、昨晩になって「待てよ、講師側に周囲が見えないことは、お気楽どころか相当致命的じゃないか」ということに改めて気がついたので、この投稿をした次第です。

オンライン講義をする側の皆さんへの何らかの参考になれば(最後になりますが、2回もで計3時間もリハーサルにお付き合いいただいたばかりか、資料に目を通してコメントしていただいた蛇川さんに心から感謝します)。