金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

プロの矜持:『名句の所以』出版記念対談を参観して(2019年1月14日)

昨日は下北沢の書店で『名句の所以』刊行記念対談に行った。たぶん参加者の多くは著者の小澤實さんか、相手役の堀本裕樹さんの関係者(同じか近い俳句結社の人々)のような感じでした。つまり「俳人」の方々が多かった。

翻訳のセミナー等では、登壇者の方が時々「内部事情のことを知っている人にしか通じないであろう用語や言い回し」や、そういった裏事情を話して「・・・ああ、あのことですね」的に応答して目配せし合うような、あたかも「素人さんは黙っててね」的な排除の雰囲気を感じることがある。僕はそういうのが嫌いで、始まる前の段階から参加者の皆さんの多くが挨拶し合っていたので「もしや・・・」とやや身構えたのですが、始まってみたら全くの杞憂でした。

お二人ともとても謙虚で、一つ一つの俳句や作者に対する敬意が溢れているというのが、素人の僕にもよくわかりました。質問コーナーでも、質問なのか自説の主張なのかわからない、なんてのはなくて、(時間がなかったせいもあるが)「続編のご予定は?」とか「今の若い人たちが俳句に使う言葉が軽くなったとのお話でしたが、具体的にどうすればよいでしょうか?」といった、僕でも知りたくなるような内容で、周りの聴衆のことも配慮した、簡潔な質問だなと思った(ちなみに2つめの質問へのお答えは「意識的に自然の中に出向くことだと思います。とりわけ都会からは自然が失われ、自然に身を置く機会が減っていると思うので」でした)。

小澤さんのご発言で最も感動したのは、小澤さんのある句(かなり有名で、世間では高く評価されているらしい)について「これはどういう場面、心境で詠まれたのですか?」との堀本さんの問いに対して、「う~ん」といって2、3秒考えた後、
「20代の句で・・・ほとんど覚えていないんですよ・・・ただ、あの頃の自分を今振り返ると、おそらく歳時記を横において季語をあれこれ探っているうちに出てきたんじゃないかな。僕はその光景を見ていない。つまり『食ってない』」

と率直に述べられた点でしょうか。大御所があえてカミングアウトして読者にこびるというのではなく、心情を率直に吐露された様子で、大変感銘を受けた。聞き手の堀本さんも俳句では相当有名な方らしいが(僕には分からない。ただ堀本さんの句が『名句の所以』に入っていた)、本当に謙虚な方で、こういう方の各文章を読んでみたいと思った次第。

お友だちのHさんに教えてもらった「ラーメン頭」でおいしい豚骨ラーメンも食べられたし、久しぶりに気持ちの良い夜でした。www.amazon.co.jp