金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

「素人さん」「アマチュア」「ひよっこ」「駆け出し」

出会った言葉:
 校閲者が「日本語のプロ」「日本語の専門家」だと思っている人は、意外に多いようです。……
 それは、違いますね。自分を専門家だ、日本語の知識は誰にも負けない、などと思っている校閲者は、はっきり言ってダメな校閲者です。己を疑わない校閲者に、校閲はできません。
……
……調べずとも済む当たり前の部分と、「これはちょっと確かめておかないと危ないぞ」という部分との匂いを嗅ぎ分けて、危ない部分は慎重に調べて行く。ここらへんの呼吸は、長年失敗を繰り返して身につけていくしかありません。「言葉の素人」であることを常に訓練しているような者ですね。
校閲者は「言葉の素人」のプロ 『その日本語、ヨロシイですか?』井上孝夫著 新潮社 p15-16)

 

 ご紹介した文章は、11月に著者の方のセミナーに行くので事前学習に読んだ著書の一節から引いたものですが、ことさら校閲者というというよりは、職業人(特に専門職と呼ばれる人々)として身につけておくべき謙虚さの重要性を説いた文章として読みました。

 自分のことを言うならまだしも、その仕事を始めたばかりの他人を「素人さん」「アマチュア」「ひよっこ」「駆け出し」と呼称する態度を許容する雰囲気に嫌だな、と僕は思います。かつて証券会社の引受部門にいたときにも同じことを感じていました。転勤が多い証券会社の中で、この道何十年という人がたくさんいたのです。もっとも当時(25年前)の証券界はもっと言葉がキツくて「このど素人がぁ!!!」「くそガキ!」てな感じの言い方でしたが(今は違っていると思いますけど)。

 専門職と言われ、同じ職種に長くついていると、そしてそういう同類がある程度集まってくると、同じムラの中で自分を他よりも上に置いて置きたいという風潮が生まれやすいようです。そういう雰囲気が本当に嫌だった。

 翻訳教室や講演会に行くと、講師の方が時たまこういう言い方をすることがあり、ご本人は悪気がないのでしょうけれど、そのたびに昔のことを思い出し、「ああこの方もムラ社会の悪習に染まっているなあ」と不愉快にもなり、残念な気持ちになったものです。

 「鈴木君、誰でも最初は素人さ。千里の道も一歩からだよ」入社8年目で突如引受部門に配属されて先輩方からいじめられて落ち込んでいたときに先輩の一人から掛けていただいた言葉を、僕は今でも、感謝とともに、その声音まで覚えています。

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