金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

「勤めている会社が世間から袋だたきに遭うということ」②(自分の職場が捜索された時の様子や感想など)

昨日のお話の続き。21年前の当社の事件は「社長の犯罪」だったので僕らの部署は「ついで」だったからあの程度で済んだのかもしれないが、自分の職場が特捜部の捜索を受けた時の前後に関して思い出したことをいくつか。

① 実に静かに始まって、静かに終わった。
「特捜部が社内に入りました」という連絡は社内の内線電話で受けた。債券部→株式部→私の部署と担当課長ベースでの内線電話による文字通りの伝言ゲーム。社内も普通に仕事をしていたので関係者以外誰も知らない。

ふと気がつくと専務が若手のサラリーマン風の男性(女性だったかもしれない)と名刺交換をしている。本当に丁寧な挨拶をした後、「では、よろしくお願いします」といって捜査が始まるんだけど、10人ぐらいの捜査員が段ボール箱を各取締役の部屋(ウチの部だけで取締役が確か7人いた)に運んだり、パソコンのチェックを始めて、本当に静かなもの。

夕方6時に課長会で別室に集まった時もチラを見られたが何も言われなかった。「え~と本日から特捜部の捜査がはじまりましたが・・・」と司会が言って初めて「え~あの若い兄ちゃん達、特捜部?俺はてっきりシステム会社の人がパソコンをチェックしに来たのかと思ってた~」とその場でビビりまくっていた次長がいましたっけ。それほど静かな、あたかも業者の軽い引っ越しみたいなイメージでした。「普段と同じように仕事をしてていい」と言われたので、普通に仕事しながら「他に隠さなければいけない資料なかったかなー」なんて考え事したなあ。

今のようにインターネットが発達していなかったので、社員はいったん社内に入るとテレビでもつけない限り社外の情報は全くわからない。よくニュースで「たった今、地検の捜査員が入りました!」ってあるじゃん。あれを家に帰ってテレビで見て、「これ、当社だったんだー」と感じるくらい落差があったな。

②押収品には預かり証が発行される。
押収物は全部記録されて預かり証が作られる。リストをその場でつくるのではなく、たぶん、取りあえずお預かりしました的な文書を示されて専務が署名していたと思う。専務と取締役、部長、それぞれの秘書の机の中と(役員の)背広の中は取りあえず全部もってかれたんじゃなかったかな。何しろ秘書のKさんがあとで、「あたし、夏休みに写した水着写真を持って行かれそうになったので、『ホントにそれいるんですか?この捜査に?』と言ったら返してくれたわ」。で、確か半年ぐらいたってから返してくれたんじゃなかったか。

③マスコミや社会から叩かれるということ
大半の社員は真面目に働いていました。

でも、テレビや新聞であれだけ騒がれ、正義感ぶった評論家からあれだけたたかれると腹も立つし気持ち的にはかなり萎える(僕はSという評論家の主張の多くを正しいと思うし評価もしているが、当時そのS氏が「証券界というのは資本主義の痰壺なんです」と言っているのを見た時は涙が出るほど悔しかった。あの発言は恨みとともに一生忘れないと思う。頭で彼の言うことを理解しても感情的には許していない)。

一番苦労していたのは営業店だった。お客様からのクレーム電話、怒鳴り込みは続いたし、商店街から出て行ってくれと正式な申し入れを受けた支店もあったぐらいでね。社章を見とがめられて殴られた社員が出たので、社外では社章を外してもいいという通達さえあったぐらい(俺は意地でつけてたけどね)。だから、なおさら身内意識が高まって「身内を守る」的な結束が強まっていたような気がする。道徳観がある意味逆転する(社会とずれる)んですよ。

そういう経験があったからかなあ、不祥事を起こした会社や役所が出るたびに当時のことを思い出して、実は真面目に働いている大半の役職員の人たちにちょっと同情しちゃうんです。

「勤めている会社が世間から袋だたきに遭うということ」①(組織の危機時に身内からド嫌われる三つのタイプ) - 金融翻訳者の日記