L社は担当者のP氏がヘッドハンティングでD社に移り、後任のS氏になってから、部分訳の割合が増えた。マンスリーレポートなので前月と同じ表現の箇所が3~4割。場合によっては8割の箇所もある。P氏の時にはそういう変更とは関係なく、「全部訳してください」と言われていたので、原文が変わっていなくても訳語や訳文を変更することはあった。またまったく同じ文章でも「その文」の位置が変わると訳文も変わることは多い
前者の場合には「変更理由」をつけて納品していた。また前月と微妙に原文が変わっている箇所については、原文の変更に伴って訳文を変えた部分、変えなかった部分についてもコメントをつけていた。
S氏は違う。原文の「変わった部分だけを訳してくれ」という要請が多い。
「パッチワーク翻訳はあとで面倒なことになるかもしれませんよ」と警告はしておいたが、「私が編集段階で見るから大丈夫です」ということだった。「鈴木さんは、その部分だけ訳していただければ結構です」。
「欧州周縁国エクスポージャーの大きい先進国負け組銘柄」
という、まあ、これくらいの長さの用語(訳語)があったとしよう。
たった300ワードの原稿1ページの中に、上の訳語が5回も入っている訳文(つまり、ここまでの原文が一致しているのだ)とセットで最後の「まとめ」部分を訳してくれ、という要請が今月の文章にあった。
この日本語を使うというので、僕の「まとめ」でもほぼ同じ用語を使って提出して電話しましたよ。こういうのって他社批判になると思うのでできればやりたくないんだけどあまりにもみっともないので・・・。「そういえば、ちょっと多いかなという気がして、確か私減らしたんです」「じぇじぇじぇじぇ・・・これでも?」「はい・・・」
ここから先のやりとりは省略します。この訳語の原文も同じように5回以上使っていたらしいので書き手も相当センス悪い。第2に、同じ原文に同じ訳語をそのまま当てはめた脳天気な翻訳者(よく採用されたな?)。そして第3に、Sさんもかなり優秀なんだけど、大統領選のディベートもあったし、忙しすぎて感覚が鈍ったのかも。パッチワーク編集になれると感覚がおかしくなってくる部分があるのかも。
「我々は、『こんなん英語か書いてありましたで~』という英文解釈を出しているのではなくて、原文を主たる素材に、日本人読者に向けて、日本語のレポートを書いて、出しているんですよね」と、悪いなと思いつつ言わずもがなの説教をしてしまう。パッチワーク翻訳をやらせているとこうなる見本みたいなお話しでした。