金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

スポーツ強豪校に子どもが入るということ①(2016年2月26日)

あまりこういう話は知られていないと思うので、興味本位的なお話を一つ(すべて事実です)。お時間のある方はどうぞ。

某県の卓球名門校私立A学園では、入学前に卓球部入部予定者および保護者向けの説明会がある。「本学の卓球部は、1に卓球2に勉強、3,4に卓球5に勉強です」そう聞かされて入部するので覚悟ができているが、入学後にすぐ「1に卓球2に卓球、3,4に卓球・・・・・・5に勉強」であることが判明する。しかし、まあ文句は出ない。

こうして卓球部の(正)部員として入学前の春休みに入部する。普段の練習は毎日朝7時集合で8時過ぎまで(筋トレとダッシュが中心)。放課後は3時半から9時ぐらいまで。休みは試験期間中と正月休みの5日間だけ(試験1週間前は練習時間が「短くなって」6時半に終わる)。ただし「3日空けると勘が鈍る」との先生の判断で、試験期間中も(週末を挟んだ場合には)土日のどちらかに「短い」2時間程度の練習が必ず入る。

学校の部活なので誰でも入部できる建前だ。新入生向けの部活紹介もある。しかし入学後に見学に来る生徒はいても入部する者はいない。子どもたちは「卓球部に興味がある、入りたいという人からコンタクトがあった場合にはB先生、C先生、D先生(つまり顧問)に連絡するように」と言われる。そうして時たま見学者が来る。たいていは練習を見た段階で怖じ気づく。それでも入りたいという子がいたらどうなるか?ここから先は想像だが、そうして職員室に行くと先生方から「君は、高校3年間命がけで卓球する気あるか?そこをよ~く考えて親御さんと相談してから、それでも入りたかったら来い」と言われるらしい。そこまで言われて入る生徒などいない。

ちなみにここまで極端な学校は息子のいたA校ぐらいなもので、例えば県内のライバルであるE校、F校、G校の場合、名実共に「部活ですからだれでも入れます」というスタンスを維持しているそうだ。進学校としても超有名なH校も同じ。ただし、練習を1,2回見学すると、やはり「結果として誰も入らなくなる」らしい(例外はいるとのこと)。

夏休みの半分は合宿または遠征だ。学校行事よりも卓球の試合(のための練習)が優先される。確か次男が2年の時、横浜中華街で校外学習があった。さすがにその後の練習は免除されるだろうとおもっていたら、顧問のB先生は「せっかく横浜に行くのだから」と横浜にあるP校の監督に連絡し、校外学習後に同校との練習試合を組んでいたのにはさすがにたまげた。したがって当日卓球部員の2年生は校外学習に卓球の道具とユニフォームを持って行き、横浜駅のロッカーに置いて参加したのである。また次男の修学旅行は大きな試合の直前だったのでわざわざ「行くか」「行かないか」を尋ねられ、次男の代で修学旅行に行ったのは次男とM君の二人だけだった。

そうして高3になる前の春休みに全員が進路に関するインタビューを総監督のB先生から受ける。「卓球で行きます」と宣言した生徒には卓球部の顧問3人が徹底的に面倒を見る。「3年間、すべてを犠牲にして卓球に打ち込むのですから、我々はやれることは何でもします」(入学前説明会)。

全国大会に出ていると比較的推薦枠は開いているのだが、大学から「奨学金、遠征費つきで来てください」と言われるのは「ランク」(全国ベスト16)まで。それ以下は「最低限県外」(県予選に通って関東または全国)であればAOや「こちらからの売り込み」でセレクションにいける。それ以下は・・・先生方(全員大学卓球部の名門校出身)がありとあらゆる人脈を利用して推薦枠を取りに行く。成績の足りない子は卓球部の練習を休ませて勉強させる。セレクション(卓球部に入るための選抜)を受けさせる。AO入試もあるので作文指導(初代総監督のC先生の担当科目は国語)、面接練習等「どこかの大学に入れるまで」本当に、徹底的に指導し、面倒を見てくれる。

で、3年に1度ぐらい「勉強で進学します」という卓球部的には「変人」が出る。次男の時も2学年上に一人いて、ウチのが2年ぶりだった。今日次男は1学年下のI君と卓球をしにいったのだが、1学年下は一人就職以外全員卓球進学だそうだ。

「・・・で、鈴木おまえどうするんだ?」

そう聞かれた次男は直立不動で一言「勉強で行きます」と答えたそうだ。

すると、当時高校3年の学年主任にして社会の教師でもあった総監督のB先生はしばらく沈黙したあとこう言ったのだという。

「・・・・あ~それは専門外だ。頑張れ」

失礼しました。