金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

「組織名の英訳」②(日本企業の英語ホームページの特徴)(2014年9月)

僕は6~7年前から対ソースクライアントでは英訳を受けるとネイティブ担当者に一次訳を任せ、私は①英和翻訳者としていわゆる品質管理、と②必ずしも成果物を評価できないお客様に対し「なぜこういう英文になったのか?」「なぜこの表現を削ったのか?」の説明を文章や口頭で説明する解説役を受け持ってきた(対翻訳会社では英訳を受けていない)。

先方はA社のCSR担当部署スタッフ(前の週に同じ会社の広報部に納品した。そこからの紹介)。依頼内容は翻訳会社に「ネイティブ・チェック付きで」と依頼した英文のプルーフリーディング。

受注するにあたって、私が彼女に説明した(私がこれまで見てきた)日本企業のホームページ英訳の特徴を説明する(これは料金をご理解いただくために必要なプロセス)。それを一言で言えば

外国人向けにメッセージを発信するという意識が希薄な、日本人が日本人向けに書いた日本語を逐語で英語にし、ネイティブ・スピーカーの「てにをは」チェックをつけた「つぎはぎ英文」だ、ということある。
もう少し具体的に言うと、

(1)視点が日本人である。
最も分かりやすい極端な例は、2年前に某社のホームページに見つけた社長の挨拶。「東日本大震災で被害に遭われた皆様に、心よりお見舞いを申し上げます・・・」をそのまま英作文にして意味があるのか?ということ。少なくともこの部分は「先の東日本大震災においては世界中の皆様から励ましの言葉をいただきありがとうございました」だろう。

視点をずらせばすぐわかることが「書かれた日本語の英訳」に囚われて忘れられがちとなる。

(2)こなれた英文になっていない
英文法の知識と辞書と検索で表現チェックをし、さらにネイティブ・スピーカーの「てにをは」チェックはされているので、例えば(以下はすべて英語だと思って下さい)。「ア)我が社の特長は・・・・である」、を逐語で英語にした最も単純な英語が全体の文体を無視して繰り返される。「今後は」を意味する英訳としてgoing  forwardが何度も何度も使われていたりする。表現にバリュエーションがないのだ。

上のア)は、場合によっては「イ)当社は・・・の分野では他の追随を許しておりません」、とか「ウ)私たちは・・・・の分野では自信を持って最高のサービスを提供できます」といった英語表現も可能かもしれないのに(もちろん逐語でなくなる場合はお客様への説明が必要)。

(3)つぎはぎ英文になりがち
CSRやホームページの社是、歴史・・・・経営理念という一連の文書は毎年それほど多くは変わらない。勢い毎年変更部分を作り、その部分だけを訳す・・・ということが繰り返される。その結果どうなるか?

最初から最後までの英語を読むとパッチワーク的英語のオンパレードで読むに耐えない英文となっている場合がある。もちろんこれは日本語の文書にも言えることだが、日本語の方がまだ誰かが文章として読んで批判する余地があるのに対し、英語は英訳にしておしまいにしていることが多い(と思われる)のだ(実は上場企業の開示文書にもその傾向がある)。

だから私はお客様に2,3年に1度で良いのでホームページのこの部分(経営理念やCSR関連)の英語を最初から最後まで読んでメンテナンスすることをお薦めしている(これは私たちにとってのビジネスチャンスだ)。

言うまでもないことだが、以上のような英文になる責任の多くは発注側にあり、翻訳会社は「英訳してくれ」と言われているに過ぎない。ただ、受注した側も「はい、わかりました」と受けるだけになってはいないか?

「この文章の翻訳は、誰に向けて書かれた、どういう趣旨の文章になるのですか?」

これは英和翻訳では基本中の基本の発想であるが、私がこれまで見た限り、この発想が和英のホームページ等の(方針や思いといったメッセージを伝える文書の)翻訳ではないがしろにされがちではないか?(他の分野はわかりません。念のため)

・・・以上を電話口で説明すると、相手は「あー確かにそうかも」(これで信頼獲得!)。今週、先方担当者は夏休みだとのこと。そこで私は来週(22日の週:マンスリーで忙しくなる前)にプルーフリーディングの終わった英文と担当者のコメント(それの私の翻訳)を持って先方を訪ね、成果物についての説明会をすることになっております。これが手数料の半分を得ている私の仕事なので。

「組織名の英訳」①(条件交渉) - 金融翻訳者の日記