金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

「組織名の英訳」①(条件交渉)

先週某社から電話があって「実は今度組織改正をして新たな組織を作る。その組織名の英訳をお願いしたい」と依頼を受けていた。文字数が少ないことはわかっていたので「ミニマムチャージをいただきますよ」「当然でしょう」という会話はあった。

一昨日原稿が届いたがセミナーに行くことを言ってあったので昨日の朝に原稿を見る。「組織名だけ」の受注は初めてである。通常の英訳の場合は、組織名は固有名詞として先方から支給されたものを使っている。

(以下改編の上引用)
以下内容について、英訳をお願い致します。

投資〇〇室
△△△プロジェクト室
□□□運用部

以上

(引用終わり)

21文字である。

これを見た刹那に昔私がサラリーマンの時に企画部門にいて組織名の作成に携わったこととその時の雰囲気を思い出した。

お見積金額の部分。まず5000円(英訳のミニマムチャージ)と書き、次に1万5000円に修正し、最終的には次の見積りメールを送った。

(以下引用)

□□様

昨日はお電話でのご対応有り難うございました。

それでは3件の部署名につき3万円(消費税込み3万2400円)とお見積もりさせて頂きます。
1件当たり1万円の勘定となります。

部門名の決定ということで、単なる日本語から英語への翻訳ではなく、全体の中でのバランスと部署の業務内容を理解した上で判断するのにかかる時間給だとお考え下さい。

合わせまして、

1.新部署の入った貴社の組織図(どの本部のどこに位置するかを確認します)。日本語と英語で(手書きでも結構です。スキャンの上お送り下さい)。

2.翻訳対象の各部署、および組織上の上位本部の説明文(どういう業務を行う部署なのか):日本語で結構です。

を頂戴いたしたくお願い申し上げます。

以上、ご検討のほど何とぞよろしくお願い申し上げます。

(引用終わり)

9時に先方に電話する。これまでの経緯から言って先方が期待している見積金額(多分ミニマムチャージを期待していたはず)の数倍であることは間違いないので(和英翻訳の一般的な考え方は説明済み)電話をして上記のメールの趣旨を説明する。上のメールに付け加えたのは以下の情報である。

1. 組織名を考える(素案を作る)のは米国人であること。
2. 今回の場合は1部門につき1時間、調査、試行錯誤の時間を見積もっている。
3. 報酬の半分が米国人に行く。つまり彼の時間給は5000円(プラス消費税である)
4. 私の仕事は先方とのこういう連絡や、英和翻訳者としての疑問点を米国人担当者と詰める。
5. この提案がこれまでの英訳の説明(1文字あたり20円~30円)とは全く次元の違う話だということは承知している。事前説明不足は申し訳ないがこういう事態は想定していなかった。改めて貴社内で相談の上、注文をいただけないのはそれもやむを得ないと思っている。

30分後に電話があり本件受注に至る。ちなみに先方担当者は企画部門のスタッフであった。以下私がしたこと。

① その後30分かけて組織変更の趣旨と部署名の意味合いの説明を受け
② 米国人担当者向けに、上のメールへの追加情報として①をまとめ、お客様に送る。
③ お客様から添削を受けて、米国人翻訳者に発注した。

ちなみにここまでの説明、資料作成と先方とのやり取り、米国人翻訳者への発注までに私が費やした時間は1時間40分。

昨日の夕方に米国人担当者からメールがきた。

(以下引用)

今朝お話頂いた部署名英訳の件ですが、翻訳会社によっては、全て文字数でのカウントしか考えて頂けないことが多く、かねてから、こういったボリュームの少ない案件の背後でかかる調べの時間や、考案にかかる時間を、もう少し配慮してくださると良いのになぁと思うことがしばしばありました・・・(以下感謝とお礼の言葉が並びました)

(引用終わり)

で、私が返信したメール

(以下引用)

私があなたのーケティング・マネジャー(交渉役)にする手はありますぜよ(ただし手数料は折半です!)。

(引用終わり)

ちなみに私は英訳もプルーフリーディングも米国人担当者と手数料は折半にしている。当然米国人担当者もそのことは知っている。

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