金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

カメラを対象に向けるのが辞書引きで、焦点を絞るのが翻訳(かも)

今朝の翻訳ストレッチ(原文訳文書き写し)から

(原文)To assess the issue empirically, we looked for measures of risk in those markets to see if they correlated with the spread.One good measure of risk is the difference between interest rates on unsecured and secured interbank loans of the same maturity.

To assess the issue empiricallyを辞書で引いて訳すと

「その問題を実証的に評価するため」となるだろう。その場合の訳文は、

(訳文1)その問題を実証的に評価するため、短期金融市場のリスク指標でLIBOR-OISスプレッドに相関するものがないか調べたところ、期間が同じ銀行間貸出における無担保取引と有担保取引の金利スプレッドがよい指標になることがわかった。

意味はわかる。実務翻訳で文句を言ってくるお客様はいないのではないか?しかしどこか焦点がぼけている。肝心の部分が曖昧な気がする。そのことが次の訳文を見るとはっきりする。

(訳文2)原因を実証的に究明するため、短期金融市場のリスク指標でLIBOR-OISスプレッドに相関するものがないか調べたところ、期間が同じ銀行間貸出における無担保取引と有担保取引の金利スプレッドがよい指標になることがわかった。(Getting off Track p17/『脱線FRB』p33:村井章子訳)

村井章子さんが「原因を実証的に究明するため」と決めたのはもちろん前後関係、内容の理解を踏まえてのもの。

そう考えると、対象にカメラを向けるのが辞書を引く作業で、焦点を絞るのが翻訳なのかな、凡庸な翻訳者と一流の翻訳者の違いはここにあるのかなという気がしてくる。

今思ったことなのでメモ風に残す。

(後記)原文は「翻訳筋トレ」でしたが「翻訳ストレッチ」に書き直しました(2021年5月16日記)