金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

日本語に引っ張られた英語

たまたま今やっている某社の英訳のチェック(ネイティブ・スピーカーが訳したものを私がチェック)をあれこれ調べながら行ったのだが、昨日、公開情報の中に日本人(あるいは日本語に引っ張られ過ぎた外人)が訳したことが明らかと思われる事例を見つけたので紹介する。

某社のホームページ(公開されている)からのコピペ
(原文)重要な会社情報は、子会社に係る情報も含めて決定事実、発生事実及び決算情報のいずれの場合も、代表取締役社長によって任命された情報取扱責任者(取締役副社長)に集約される体制をとっております。
(訳文)A system is in place so that important company information, including information on subsidiaries, flows to the Chief Information Officer (Executive Vice President) appointed by the President and Representative Director, regardless of whether such information concerns decisions, facts which occurred, or financial results

上の英文、色々問題は多いのだが、今回はポイントを「発生事実が・・・に集約される」のみに絞る。

恐らく上記は日本人が訳したものと思われる。恐らく私も「発生事実」の定訳を探しに行くと思う。

さて、東証のホームページに次のような英語がある。
Facts which Occurred for a Listed Company
1. Loss arising from a disaster or damage which occurs in the course of business execution
2.Change in major shareholders or the largest shareholder
3. Fact which causes delisting
4. Filing of a lawsuit or a court decision

ここから、「発生事実」とはfacts which occurredという訳語を「当てる」のではないか、と考えてしまう(私でもそうする)。
現在請け負っている文章に「発生事実」があり、ネイティブ担当者はこれをeventsと訳してきた。
日本人である私は上の例を示し、Facts which Occurred は考えられないかと質問を投げた。この英語が不自然であることは承知しているが対案が見つからなかったからだ。

これに対する担当者の答え
1.上の某社のホームページは参照していた(東証のホームページはみていなかった)。その上で、この英語を不自然と断じ、「名詞の形で言いきってしまう日本語独特の言い回し」の直訳と断言。その上で、
2.仮にInformation on facts which occurredだとinformation =factsでありリダンダント。したがってfactsは不適。したがってeventが適切と判断したと回答。
3.したがって対案としてAll facts are collected...を提案してきた。つまり
Information on events

All facts
というわけ。結局私はall factsを選択し、お客様向けにInformationを使わない理由をコメントした。

この7年ほど、毎回こういうやり取りをしている。私の英語力では発生事実=(単なる)factsまたはeventsは出てこない。

私が自分で英訳をやらない(できないとあきらめた)理由だ。

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