金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

自分で書いて訳して自己採点する。(翻訳ストレッチの教材から)

(原文)Victorian society judged women much more than men according to their attractiveness to the opposite sex and the attention they paid to their personal appearance.
(訳文)ヴィクトリア朝時代の社会では、男性よりも女性のほうがはるかに、異性に対していかに魅力的であるかとか、自分の外見にいかに気を遣っているかで判断される傾向が強かった。
(小倉弘著『難構文のトリセツ』(かんき出版)p127より)

難しい単語はなく、構文も容易に理解できても、すぐには自然な日本語になりにくい事例。

本書は(恐らく)大学受験生向けで、しかもクイズ形式(本書の原文では、paid とtheirの間が(  )になっていて、to を入れる形式になっており、pay attention toという熟語の形がくずれている英文を理解するのが目的となっている。だから受験生は( )内のtoを正解し、説明を読んだらすぐ次に進んでしまうだろう。

しかし本書を、単文を自分で訳して正解の日本語訳を見て自己採点する勉強方法で読むと、価値が2倍にも3倍にもなると思う。大学受験生がその自己採点ができるかどうかという問題は残るものの、せめて「その勉強方法」をどこかに提示すればよいのにと思います。

なお、翻訳者が本書をそのように使えば、翻訳の基礎の復習という意味で実に価値の高い本だと思う。

*お断り:僕はかんき出版の回し者ではありません。

 

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総称のtheについてのメモ(2):総称のaやtheはふつう目的語には使わない(翻訳ストレッチの教材から)

以下は小倉弘著『冠詞のトリセツ』(かんき出版)p105から。

「私は犬好きです」に相当する英文はどれか。

(a) I like dog.  (b) I like a dog.  (c) I like the dog.  (d) I like dogs.  (e) I like the dogs.

小倉さんは、正解は(d)だとした上で、「aやthe はふつう目的語の位置では使いませんから (b) と  (c) は不可です」(p105)と指摘している。根拠となる文法書は示されておらず、また手元の文法書にはこの点に関する記述が見当たらなかったが、ここは小倉さんの言うことが正しいと捉えることにする(小倉先生の「信用」です)。

その上で、(a)から(e)の日本語訳を次のように紹介している。

(a) I like dog.  「犬の肉が好き」

(b) I like a dog. 「気に入っている犬がいる」

(c) I like the dog. 「例の犬が好き」

(d) I like dogs. 「犬好き」

(e) I like the dogs. 「あの家の犬たちが好き」
(同書p105)

*下の「総称のtheについてのメモ」も参照のこと。

tbest.hatenablog.com

 

多義語の難しさ(face) (翻訳ストレッチの教材から)

(原文)The difficulty Americans have in understanding 'face' in Japan stems largely from the emphasis placed by American values on the individual.
(訳文)日本の『体面』というものをアメリカ人がなかなか理解できないのは、主にアメリカ的な価値観においては『個』が強調されることが原因である」(小倉弘著『難構文のトリセツ』(かんき出版)p125)。

これは1文だけの取り出し説明で文脈はなし。しかも文法上の重要ポイントは名詞構文。ところが僕が引っかかったのはそこではなく(英文の「形」は一読してわかりました)、faceを見た瞬間に「体面」まで連想できなかった。もちろん、save face という表現は知っているけれども、文脈なしでこの文を読んだ瞬間に思いつかなかった。要するに語彙力がまだまだということ。悔しいです。反省。

「カレー」

「いったい、いつから痛くなったのかなあ」

実は昨日腰が痛くなった。普通は「きっかけ」がわかるものだが(その最たるものはギックリ腰)、昨日はいつの間にか痛くなっていて夕方シップを貼った。

「それはお父さんカレーよ」
「え、カレー?」
「加齢よ。加齢のせい」
「あ、そうだな。でもさ、『カレー』って言葉を聞いて、まず食べ物のカレーを思い出すとこなんざ、俺もまだ相当若いな」
「食い意地が張ってるだけじゃん。それに、やっぱりその症状、加齢ね」
「なぜだ?」
「だって、あたしの最初の『カレー』って聞いた時に『加齢』に思い至らなかったわけでしょ。やっぱり年取ったのよ」
「でも、昔『ローカですな』と言われて最初『廊下』と勘違いして、医師から言われて初めて『老化』とわかった僕だよ。その時と同じだろ」
「違いますね」
「なぜ?」
「その『ローカ』の話はあたしも何度も聞かされたけど、それってお父さんがまだ30代後半、まだ本当に『老化』とは無縁だった頃の話でしょ。ある意味で、判らなくても当然よ。でも今のはわからなきゃ」
「・・・」
「その文脈が読めなかったってことは、やっぱお父さん、カレーなのよ」

反論できなかった。

「渥美清は、元気かい」

以下は、2022年9月17日の朝日新聞朝刊に載った山田洋次監督の文章から。寅さんシリーズが7~8作目まで来た時に、まだ続けるかどうかを尋ねた山田監督に渥美清さんがこう答えたそうです。

「5作目を封切った頃、私が東京駅のホームで遅い時間に電車を待っていたら、酔っ払ったサラリーマンが通りかかり、私を見てにこにこ笑いながら『いつも寅さん、見てるよ』と言った。私は『ありがとうございます』と答えたけど、その彼が去り際に『渥美清は元気かい』と言う。『元気ですよ』と答えたら『よろしく言っておいてくれよ』と言って機嫌よく行ってしまった。私は2作目、3作目とこのシリーズが評判になり出した頃は、若い娘なぞが私を見てクスクス笑って『あら寅さんだ』などと言ったりすると、内心、あれは役として演じているのであって、本物の渥美清はあれほど馬鹿じゃない、新聞ぐらいちゃんと読んでますよと思ったりしてたけど、東京駅でそのサラリーマンに会った頃から考えが違ってきた。この役をいい加減に演じていると、田所康夫(鈴木注:渥美清さんの本名)は車寅次郎に追い越されるぞという不安のようなものを感じるのです」

あまりにいい文章で、残しておきたいと思ったので書き写しました。全文は下記をどうぞ。

www.asahi.com

 

 

 

 

「ビジネスに役立つ経済金融英語」第14回:ウェルビーイング Well-being

ビジネス英語教育を実践されているQ-Leap様連載「ビジネスに役立つ経済金融英語」の第14回がリリースされました。

今回のテーマは「ウェルビーイング Well-being」。ご存知の方も、ご存知ない方もどうぞ!

英語をそのままカタカナ読みにした事例の紹介です。

ちなみに、米国では今、Kondo をUrban Dictionaryで引くと次のようにでてきます。
”Kondo" used as a verb. it refers to purging things in your life if they do not spark joy in you.

named after Marie Kondo, career organizer, writer of the book "the life changing magic of tidying up" and star of her own show on netflix called "tidying up with Marie Kondo." 
知りませんでした。

q-leap.co.jp

高校の同期会で『ベンチャーキャピタル全史』をセールス

昨日は高校の同期会。22日に『ベンチャーキャピタル全史』が出たので、近況報告の時に宣伝してもよいかと幹事にお願いしたらどうぞどうぞと。

今週号の『週刊新潮』に出た堀内勉さんの書評(A4で1ページ)を出席者全員分コピーして持っていくと参加者用資料に差し入れてくれ、会議(宴会の前に事務連絡等があります)の途中で「予定にはありませんが、37R(3年7組という意味です)の鈴木君がまた本を出したというので紹介してもらいましょう」と粋な計らいをしてくれた。

今日になって出席者の一人の友人から連絡が入った。
「4冊購入したい。鈴木君のサイン入りで」との嬉しい申し出。

40数名出席の会で一席ぶって4冊の売り上げはなかなかの成果と言えるかも。
クラスメートたちの友情に感謝(ちなみに昨日は北浦和の二次会会場から西葛西の自宅まで、電車に何度も乗ったり降りたり行きつ戻りつ乗り直したりしながら最終電車に何とか乗れて帰れたのだが、いったいどうやってたどり着いたかよく覚えていない)。