金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

SDGs(持続可能な開発目標)はアヘン?

「斎藤幸平さんが『SDGs(持続可能な開発目標)はアヘンだ』って言ってるわよね」

NHKの100分de名著でカール・マルクスを取り上げた回を見て以来、ウチのは斎藤さんファンでして、僕の参加している勉強会で先月テキストになった『人新生の「資本論」』を読ませてくれというので貸していたのである(ちなみに私は今そのムック本を読んでいる)。

NHK 100分 de 名著 カール・マルクス『資本論』 2021年1月 (NHK100分de名著) | 斎藤 幸平 |本 | 通販 | Amazon

「そうだったなあ」。自分が担当した部分を必死に読んでメモして勉強会で発表したとたん、大方の内容を忘れてしまった僕は、若干の見栄を張ってこう答えた。

「あれって、やましたひでこさんが言っている『収納ボックスをいくらつくって整理してもダメ』ってことと同じじゃないかしら」「どういうこと?」

「収納ボックスをいくらつくって整理しても断捨離にならないのよ。収納ボックスそのもの、つまり不要な物を仕分けして減らさないと意味がないってこと」。

ちなみにウチのは断捨離の大々大ファンです。

「・・・いくらガソリン車を電気自動車に変えたってたかが知れてるってこと。電気自動車は収納ボックスなの。車そのものを減らす努力をしなきゃだめだってことじゃないかな」

「そういうことだなー」

「お父さん、ウチ自動車買ってこなかったじゃない。あれって素晴らしいことだったのね」

「ま、まあな」(我が家がマイカーを持ったのは自動車が必需品のスイスにいた3年半だけ。理由は単に僕も妻も自動車に興味がなかっただけなのだが・・・)「・・・無意識のうちにそういう意識を持っていたのかも知れんな」。やや無理筋と思いながらこう答える。

「斎藤さんとやましたひでこさんって共通点多いわー。お父さん、いい本を紹介してくれてありがとう」。

勉強会で使った本を貸しただけなんですがね。

以上も今朝の朝食時の会話でした(↓はご参考)。

SDGsは企業PRに使われ、真の環境問題や貧困の解決策にならない【山口周×斎藤幸平】 | Business Insider Japan

大学生向けに産業翻訳の入門編を講じる③ー遅れてきた学生(後日談)

3日前、この春に2回講師をした大学から連絡が来た。

私の採点と講評を見た学生のうち一人から「自分の提出したファイルの内容が反映されておらず、ほぼ白紙の状態のままの提出になってしまった。メールで返却の評価を見て気が付いた。提出遅れという扱いでもよいので再評価してほしい」との連絡が来たとのこと。課題の提出期限は6月28日だったので零点になっても仕方がないという。
20人ほど採点/講評を書いた中に、極端に回答数の少なかった答案がいくつかあった。この学生もその一人で、なぜか1問目のみ回答が書いてあり、その後はほぼ白紙だった。

回答を書いてもらった場合には問題ごとに添削/講評を書いて点数をつけていたが、この学生は1問目のみ得点。それと僕自身の出題ミスで全員に配点(10点)していた問題があったので、その分を足して合計得点15点として、白紙部分には「テキストをよく読んで復習して下さい」と書いて返してあったのである(なお平均点は100点満点で87点だった。授業さえ真面目に聞いていれば楽勝で9割は取れる問題にした)。

もちろん見直させてもらうと返答したところすぐに彼の学生の答案が送られてきた。しっかりした内容で100点満点の92点。「よくできました」と講評して返却した。

今回の授業は6名の講師がそれぞれ2回ずつ授業をして課題を出す。学生は6回のうち最低3回の課題を提出し、運営側は得点上位3回分の得点を成績として記録するという形式。僕は個別の添削を求められておらず最初は与えられた得点シートに点数のみを記録して返却するつもりだったが、学生の答案を読んでいるうちに心情的に添削講評をしようと思い立ったわけだ。

で思ったのだが、僕の場合には答案を採点して返却したので学生はそれを見て自分が提出したファイルの間違いに気がついたけれども、これがなければ彼の得点は15点になっていたはず(もっとも彼は6回分全部提出したらしいので当初の15点はカウントされない)。

大学の期末試験ってこういうことがあり得るのではないかなと思った次第。

なお、この学生の感想欄の最後に次の記述があった。
「将来は私は産業翻訳に興味があるので、時間のある大学生のうちから英語の勉強さらには証券、金融の勉強をしたいと思います」

ここまで書いてくれた学生は彼だけだった。「遅れてきた学生」の、この一言だけでもやった甲斐があった。

とても嬉しかったです。

出会った言葉(昨年~3年前の今日、FBお友だち限り投稿への書き込みより)㉑

(1)昨年の今日
斎藤英和中辞典は斎藤秀三郎が一人の助手も用いずに書き上げたものである。
(大村嘉吉著『斎藤秀三郎伝―その生涯と業績』吾妻書房 p400)

(2)2年前の今日
対内的には格差を拡大させ、分裂を強め続ける日本に未来がないのと同じように、対外的にはすでにその覇権に陰りが見え始めているアメリカにすがり続け、アジアとの関係を根本から再構築しようとしない日本にも未来はない。
(「『平成時代』p248 吉見俊哉著、岩波新書

平成時代 (岩波新書) | 俊哉, 吉見 |本 | 通販 | Amazon

(3)3年前の今日
 何をするにも自分一人じゃできないんだと知ること。そして周囲に言う必要はないけれど、自分の責任を意識しておくこと。これって自分だけの評価でいいんです。うまくいってもダメでも言い訳する必要がなく、本人レベルで判断すればいい。課題を胸に抱え、自問自答して欲しい。
中須賀真一「仕事力 ―崖っぷち体験を早く」2018年7月29日付朝日新聞

中須賀 真一が語る仕事--3│仕事力│朝日新聞ひろば~朝日新聞の読み方をナビゲート

 

「多様性と調和」

「ねえ、お父さん、東京オリンピックの理念の1つって『多様性と調和』だったっけ?」
「そうだったかなー」
「でもさ、そもそもオリンピックって、あとパラリンピックも、金メダルを目指して参加者が競争するんだよね」「そうだなー」
「つまり、1つの基準に沿って参加者を絞り込んでいくってことじゃない」「その通り」
「そのどこが『多様性と調和』なの?」
「・・・お前いいこと言うなー」

今朝の朝食時の会話でした。

多様性と調和(2021年7月29日)/Diversity and Harmony, July 29th, 2021

「ねえ、お父さん、東京オリンピックの理念の1つって『多様性と調和』だったっけ?」
「そうだったかなー」
「でもさ、そもそもオリンピックって、あとパラリンピックも、金メダルを目指して参加者が競争するんだよね」「そうだなー」
「つまり、1つの基準に沿って参加者を絞り込んでいくってことじゃない」「その通り」
「そのどこが『多様性と調和』なの?」
「・・・お前いいこと言うなー」
今朝の朝食時の会話でした。)

"Hey, Darling, wasn't one of the principles of the Tokyo Olympics 'Diversity and Harmony'?"
"I guess it was."
"But the Olympics, and the Paralympics too, are about participants competing for gold medals, right?"
"That's true."
"So, it's about narrowing down participants according to one standard, right?"
"Absolutely."
"So, where is the 'Diversity and Harmony' in that?"
"...You make a good point."
This was a conversation at breakfast this morning between my wife and me.

 

やっと居場所を見つけられた:出会った言葉(昨年~3年前の今日、FBお友だち限り投稿への書き込みより)⑳

やっと居場所を見つけられた(1)昨年の今日
私は「この街でやっと居場所を見つけられた」という人たちを何人も知っています。彼らが苦悩したとき、どんな言葉で救われるのか。……私だったら……「あなたはそのままでいい。何も悪くはないし、変わらなくていいんです」と肯定されたい。
(「歌舞伎町は「ワケあり」ゆえやさしい 岩井志麻子さん 2020年7月21日付朝日新聞
*僕は、昔はこういう心境ではありませんでした。引用文で……で抜いた「行いを悔い改めなさい。昼の正業につきなさい」と諭していたと思います。今はかなり共感できる。私も未熟者だったので(今もそうですが)。

(2)2年前の今日
「僕は『頑張る』という言葉が好きじゃない。自分を無理に奮起させると、どこか無理が生じる。頑張るより楽しむことが大事」杉本雄さん(帝国ホテル 東京料理長)
(「My Story――わんぱく小僧の帰還」2019年7月28日付日本経済新聞
*高校時代に自ら人事部に手紙を書いて入社させてもらった帝国ホテルを、脂がのりきっている時代にいったん退職しフランスに単身乗り込んで成功。10数年後に呼び戻された杉本さんの言葉。時代の流れは「苦しむ」から「楽しむ」へを実感させる。

(3)3年前の今日
 「ネットで人々のつながりは多様になった。でも主な連絡手段が家の電話だった当時は、仲間に会う時間がいまより濃密だった」
(「音叉(おんさ)」 高見澤俊彦氏 70年代 最大公約数の青春――あとがきのあと 2018年7月28日付日本経済新聞

困ったときにはどうするか:出会った言葉(昨年~4年前の今日、FBお友だち限り投稿への書き込みより)⑲

(1)昨年の今日
「オンラインで会議すると、若い社員ほどよく発言する。中間管理職は発言をしないで様子を見て、経営者の行きそうな方向に賛成するというんですね。それでわかったこと。中韓管理職は要らないということです」
(「点検 コロナ後の世界 斉藤惇氏インタビュー」本日のテレビ東京「モーニングサテライト」)
オンライン会議では表情が読みにくいので「あうん」がよくわからない。若手からしてみれば偉い人の威圧感がない。会議が終わると画面がパッと閉じるので「いや~あの発言の真意は・・・」とかフォローが効かないし雑談もない。だから誰が何を話したかで全体から平等に評価されるのだろうと思いました。斎藤さん、そろそろ80歳のはずだけど、若いわ。

(2)2年前の今日
困ったときにはどうするか。実は、「とりあえず無視する」か「適当にパラメーターをいれておく」が、科学の常套手段です。
(『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』P134 新井紀子著 東洋経済新報社

AI vs. 教科書が読めない子どもたち | 紀子, 新井 |本 | 通販 | Amazon
とにもかくにも前に進むというこの「科学的態度」は、難しいなあと思ったときにはとりあえず原文のままに置いておく(無視する)か仮訳を置いて前に進むという(私にとっての)翻訳にも当てはまりそう。

(3)3年前の今日
 「批判」というと、相手の主張をやっつけることだと思うかもしれない。が、もっと大切なもう一つの意味がある。自分の振る舞いが適切であるかどうかを省みることだ。
(「春秋」2018年7月27日付日経新聞

春秋: 日本経済新聞

(4)4年前の今日
都市に立ち並ならぶ高層ビル群を眺めながら思う。果たしてこの中に、解体することを想定して建設された建物があるだろうか。作ることに壊すことが既に含まれている。これが生命のあり方だ。
福岡伸一 「作ることは壊すこと」2017年7月27日付朝日新聞30面)