金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

翻訳勉強会の効用

 3年ほど前から、K社編集部K先生の主催される翻訳教室の卒業生(1期につき半年のコース2期1年で「卒業」、それ以上は受講できない)による勉強会に参加している。分野は文芸。教材は原文、先生の試訳、学生訳、講義録、そして講義を録音した音声ファイルをすべて先生のご厚意で無償で提供していただいている。僕たちの勉強会は毎月第1水曜日の午後7時から2時間。出席者は毎回10名前後である。
 事前に自分の訳を提出しておき、当日は課題分の「講師訳」を順番に音読し、先生からいただいた詳細な講義録を随時参照ながら、段落ごとに問題点や疑問点を話し合うというスタイルだ。なお課題の提出期限はその週の日曜日なのだが、僕は月末月初にプロジェクトを抱えていることもあり、毎回、当日に全員の分を印刷して持ち込んでいる(恥)。
 月に1度の翻訳勉強会で何を最も学べるかというと、やっぱり多くの人々のさまざまなプロセスだと思う。
①どの辞書のどこをどう眺めた、どう組み合わせて考えた。
②どの句を検索した、どの絵や写真、映画を見た、どの本を探した、何を聴いた。
③その上でどう考えた
④その上でどう訳した(訳せなかった)
 ・・・・というのが人によって微妙に、あるいはかなり異なる。何しろ、普段取り扱っている分野も異なるので、調べ方も人によって結構ちがうんだ。年齢も職業もさまざまなので、同じ言葉に対する背景知識や語感も当然異なる。
I've also been a schoolteacher and worked construction and run the night shift at a homeless shelter and interned at a men’s magazine.”(Sam Lipsyte "The Appointment Occurs in the Past" from New American Stories Edited by Ben Marcus, p275
A嬢「この、interned at men's magazineって(「男性誌インターンもしていた」という訳文だったとしても)どういう意味かしら?」
B氏「出版社のインターンですかね・・・」
TS氏「それは・・・男役、相手役でしょ。女優の・・・ men’s magazineでっせ」
女性陣:???
C氏「つ、つまり・・・だ、男優ということでは・・・」
「な~るほど、・・・でも本当にそうかしら?」
「話してる相手は娼婦だぜ、初対面の。こりゃどう考えてもアレでしょ、あれあれ」(勢いづくTS)
「・・・単なるファッション誌じゃないの?」
「そ、そこはさあ、『ポルノ男優』を、かっこつけて、気取って言ってるワケよ」
 ・・・てな感じの、わいわいガヤガヤのフリートーキングからエッセンスを拾う(ほとんどはもっと高尚な話題です)。
 そこが勉強になる。
 毎回、自分の訳文を持って行くのは恥かきに行くようなものだが、僕は「参加チケット」と開き直ることにしている(持って行けないこともある。仕事で出られないこともあります)。
でも行く価値は大いに、大いにある。
 自分が悶えてもだえて苦し紛れになって訳をひねり出したり出せなかったり箇所を、他の多くの皆様も苦しんでいた、ということがわかって少しホッとしたりしてね。
 先生は教材を提供されるだけで、勉強会には一切お出にならないので、全員が誰の顔色を伺うこともなく、平等に、自由に、遠慮なく(でも礼節を失うことなく/私が時たま下品にしているが(恥))考え、話し合うことができる。 ここが教室と勉強会の一番大きなちがいではないかな。
 終わった後の補講(飲み会)も楽しみだしね。
(補足)なお、この「卒業生勉強会」は、翻訳教室の期が重なるについれて徐々に増えていき、現在は6つぐらい。70~80人ぐらいが学んでいるのではないだろうか。しかも勉強会後には各回の書記(僕らの勉強会では毎回立候補で決めている)が書いた「まとめメモ」が先生に送付されて、その後全員に配られるので、他の勉強会の様子(というかポイント)も読むことができる・・・と一粒で何度も美味しい翻訳学習システムができあがっているわけだが、ここまで書いてきて、「果たして自分はそのおいしさを十分に味わっているか?」と自らの努力不足を大いに反省した次第。