金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

『翻訳力錬成テキストブック』

『翻訳力錬成テキストブック』(柴田耕太郎著 日外アソシエーツ
https://www.amazon.co.jp/dp/4816926674/

 

2~3日に1度、毎回5~10分ずつ取り組んでいる。6月下旬から勉強を始めてほぼ半年。現在は「課題文2-2」(132ページ)だから4分の1ぐらい進んだことになる。旧版は買っただけでほとんど目を通さなかったので大きな進歩。このペースならあと2年ぐらいで読破できそうだ。

旧版は2004年。初版で買ったので(というか、おそらく初版で絶版になった)独立後2年たった時ぐらい。買ったときの印象は覚えている。「英文を1点の曇りもなく読み取る?・・・でここまで意訳する?」という拒否反応が大きかった。単なる趣味だろ、と思った。本が厚いのも気に入らなかった。

その後3年ぐらいこの本と著者が嫌いになっていたのだが、CTさん主催の勉強会に柴田先生が来られて(CTさんは柴田先生の翻訳教室に通っておられたのだ)、黒板を使って書籍通りの細かい授業をされたのだがそれはスッと頭に入って感動した。で、改めて旧版を開いたけど、やっぱり「ここまで意訳はないだろう。細かすぎだろう」という印象は変わらなかった。

それから10年。今年初めに新版が出ると聞いた。CTさんが関わっておられたという話も伺っていたし、使われている原典はあまり変わっていないのですが、レイアウトがスッキリしたのと、出典が明らかになるなどかなり見やすく、勉強がしやすくなったのも勉強が続いている理由の一つだと思う。

ただ、最近思うもう一つの「勉強が続いている」理由は、僕が少しは「翻訳力」がついたからかな?ということです。

昔は細かすぎる、というか原文から離れすぎていると思った柴田先生の訳。「出版物として読める」を狙って思い切って日本語を使うのだが、ちゃんと枠内に入っている。「意訳もここまではよい」というセーフラインを示してくれている、といいますか。特に「原文に即した訳」と「モデル訳」と比較検討するとそれがよく分かる。

 

とても素晴らしい本だと思う。

 

ただ、翻訳を始めたばかりの人は13年前の僕みたいに狙いがわからなくて放り出すかも。その意味では、学び初めは『誤訳の構造』『~典型』『~常識』や伊藤先生の『英文解釈教室』の方が良いような気がする。

 

3カ月ぐらい前だったかな、何気に本書をパラパラとめくっていたら、「あとがき」の最後のページに「協力 出典調査 CT(実務翻訳者)」とあった。「あ、やっぱり」と思ったらジワッときた。そして「柴田先生、ちゃんと書いて感謝していたんだ」と柴田先生のことも(ちょっぴり?)好きになりました。

 

ちなみに、今アマゾンを見たら読者のレビューがあった。厳しい意見だが、これはまさに13年前の僕の意見にほぼ等しい・・・ということはこのレビュアーさん、柴田先生の訳をちゃんと読まずに否定した13年前の僕と同じような、翻訳者のなりたてか、自分は翻訳をしたことのない語学屋さんかも。