金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

ABD(Active Book Dialogue)の衝撃(2017年11月)

昨日、某出版社の会議室でABD(Active Book Dialogue)と呼ばれる勉強会に参加した。参加の理由は、今度出版される訳書の再校ゲラがテキストになったからだ。

衝撃的だった。これだけの衝撃を受けた勉強会はもう何年もなかったかもしれない。

ABDとは、参加者全員の集団作業で、事前に何の準備もない状態で1冊の本を分担して読み、担当した本の一部分を各自が読んで要約して紙にまとめ(コ・サマライズ)、壁に貼りだして本の流れに従って、パーツパーツを担当した人が全員の前で発表し(リレー・プレゼン)、その後本の全体について感想や意見を言い合う(ダイアログ)の3ステップで構成された読書法のこと。本の長さにもよるが、1冊を「仕上げる」のに数時間~1日かかる。

事前に本を読んでおく必要はない(読みたい人は読んでいてもよい)ので、例えばある本の第3章だけを読んでも「前が分からなければわからない」と普通は思う。それで良いのだ、わからないままにその部分のなかで自分が重要だと思った部分、感動した部分をまとめてしまう。「ポイントは、いかに削るかです」と説明してくれたのは、昨日ファシリテーター(進行役)を務めてくれたKさん。

実に面白いのは、そうして1章から順番に一人3~4分で発表を始めると、たとえば3章を担当した人は「あ、私の章のこの部分は、この1章のこれに繋がるもので~」とパッとわかることが多いこと。私の訳書は本文だけで550ページを超える大著で、しかも今の日本にはない組織論(言語化が難しい)にもかかわらず、パーツパーツを自分なりにまとめた人たちが、自分の担当分を順番に発表しただけで、本の全体像が分かった気になることだ。

当然のことだが、私の訳本はまだ出版されていないので全員が初見だ。すると、リレープレゼンの過程で、1冊の本に対する全員の理解が「同時に進んでいく」のである。これは他の読書会にはあり得ない特徴だろう。参加者の一体感も増してくる。これは端で見ていてその雰囲気の変化(今までわからなかったものが分かってくることによるボルテージ上昇)がよくわかった。

そしてリレー・プレゼンが終わると会議室の壁には1章から最終章までのB5版×6ページにつながったまとめノートがザッと並ぶ。これで本1冊のメモができあがり、その全体を写真にとってPDF化する(?)と本1冊分の要約ができあがるのだ。

所要時間は4時間だったが、全然長いと思わなかった。参加者の人は逆に短かすぎると思ったかも(1時間30分ぐらいで担当の20~40ページを読んで、まとめなければならないため)。

参加者は全員が完全な初心者というわけではなく、ファシリテーター(進行役)経験者も3人ぐらいいたので、常に同じような読書会ができるとは限らない。「大丈夫です。最初は簡単な、短い本でやればよいのです。それが起爆剤になれば」とKさん。実際にカリキュラムに取り入れ始めた学校があること。

この感動は実際に見てみないと分からないと思う。いや昨日の僕は見学だったので実際には発表していないのだが、終わった頃には自分も参加したくなりました。

この勉強会の方法論はすべて無料で開放されている。ホームページを見ると嘉村 賢州さん(昨日のファシリテーターKさん)の「ABDが世界を変えるかも?」というコメントがあるが、本当にこの方法は世界を変えるかも知れないと思った。
http://www.abd-abd.com/

Kさんは京都にあるNPO法人代表理事なので、関西の方はお話しを伺いに行っても良いかも。「場とつながりのHome’s vi」のホームページはこちら
https://www.homes-vi.org/

いや~震えるほど感動した。