金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

「ディープでコアな講演会」ー 大森望×山形浩生 「ディストピアSFの系譜」

昨日は夕方まで仕事。5時に納品した後に下北沢へ。数々のラーメン屋の誘惑を振り切りカレー屋に入る。会場は駅からすぐ近くだが細い道を入ったところ。催し物があるとの看板がないと、つい通り過ぎそうな入り口から階段を上った2階にある、目立たない書店。棚は全部手作りか、他の用途で使っている箱。天井の配管がそのまま見える。いかにも「ディープ」な本屋さんでその催しは開かれた。

 

大森望×山形浩生

ディストピアSFの系譜」

『すばらしい新世界』『動物農場』刊行記念

 

開演30分前に店についたらすぐ受付が始まる。飲み物チケットをもらう。「お飲み物はこちらでご注文ください」。前の人の真似をして「生ビール」。書店で生ビールいいのかしら、と思いながら、「本日は満席でご予約のない方は・・・」という店員の方の声を背にしてプラスチック・カップに入った生ビールを抱えて店奥の会場へ。

 

会場は店奥の、普段はバー(飲み物を飲みながら本を読める)として使われる100平米ぐらいのスペースに丸いすがビッシリ。60人分ぐらいかな。前から3列目。始まった時に後ろを振り返ったら会場は「立錐の余地がない」と形容できるぐらいビッシリで「途中でトイレに行きたくなったらどうしよう?」と余計なことが心配になった。

 

女性が数えるほど(3~4人?)しかいなかったのも、登壇者が二人の翻訳者である会にしては珍しいと思った。

 

トランプ大統領当選とその後のAlternative factsからの話の大枠は知っていた。またその関連で『1984』が売れたことはは承知しており、『1984』も大昔に読んでいたから何とかついていけものの、そもそも参加しようと思った動機は内容ではなく登壇者に対する興味だけで事前勉強ゼロだったこともあり、それ以外の、例えば「伊藤ケイカクが・・・」「ディストピアとエバンゲリオンの・・・」「ライトノベルディストピア・・・」「・・さんの訴訟で・・・」等々、2時間続いた(SF)出版裏話的雑談の半分ぐらいはわかりませんでしたが、お好きな方が聞いたらシビれるような内容だったのではないかしら。

 

参加者の多くはコアのファンらしく、訳知り顔で多くの人たちがうなずいているのを見て「なにこれ?」と最初は思ったものの、途中で山形さんが「え~っとあれ、誰だっけ、++++訳した人・・・名前が出ない」と言ったら間髪空けずに「LLです」と複数の声が上がったのを見て、「ああ、ここに集まった人たちは上のような話の行間をちゃんと読んでわかっているのだ。こりゃ本物だ」と思った。中味にはついていけなかったけれども、全体的な雰囲気は明るい、優しい雰囲気の「雑談会」で、行って良かったと思った(何となく楽しくてあっという間に時間がすぎた。ビール飲んだにもかかわらずトイレにも行きたくならなかったのにはホッとした)。

 

終了後にサイン会。僕は『動物農場』(山形さん訳)と『現代SF観光局』(大森さん著)を店内で購入してサインをもらった。山形さんの奥さんが2年前に訳した本の編集担当者だったので、彼女宛に簡単な手紙と『Q思考』を添えた紙袋を用意し、サインしてもらっているタイミングで「実は不躾なお願いが・・・」と事情を話すと、山形さん、「ああ、わかりました」と受け取ってもらえたのにはホッとした。大森さんには「同じ町内でございます」「それはそれは」「私は1丁目ですが、大森さんは・・・?」「僕は2丁目で、・・・後ろのマンションが仕事場なんです」という会話。

 

山形さんの本は『21世紀の資本』のみ、今翻訳筋トレで読み進めており、大森さんの本は『特盛!SF翻訳講座』しか読んだことがなかったのだが、お二人の人柄に触れた後だろうか、読者としてファンになるかな、と思った。コンサートに行くとその歌手のファンになる心理に似ているかも。

 

とまあ、中味に立ち入った感想が書けず情けない感想文でスミマセン。