金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

「〇〇区在住。一男一女」 (日英翻訳の現場から)

7~8年ほど前から、和英(日本語→英語)はネイティブ翻訳者に訳してもらい、私は品質管理のみを担当することにしている。

 

最近出会った「実務翻訳(和英)は英作文にあらず」の例を2つご紹介。

 

(1)事例1「〇〇区在住。一男一女」 

表題は、ある会社の役員経歴の英訳(外国人投資家向け)案件。日本の新聞雑誌等でよく見かける経歴書の末尾。この役員は男性である。

これを訳すのか?というのがネイティブ担当者との間で話題になった。

なぜなら、これを訳した瞬間に、欧米流に言えば「子どもたちは一緒に住んでいるのかいないのか。この役員は結婚しているのか、結婚していたのか?再婚している(いた)のか・・・・」さらには、この一男一女は「だれとだれの子どもなのか?」ということを考え(説明)始めなければならなくなるかもしれないからだ。

もちろん、「長男の太郎は〇〇大学を卒業し、・・・・(同じ会社)でこういう実績を挙げて今は・・・、次男の・・・は・・・。妻の・・・は・・・という経歴」はあり得るんだけど。

結論は「訳さない」。もちろん、訳さない理由もお客様に説明した。

日本では書かなくても当たり前(だと思われること)、あるいは一行で済むことを、欧米では長々と書かなければならないことがある(だったらそもそも説明しない方がよい)ことを実感した例。

 

(2)事例2 

ある上場企業の女性役員の経歴書の英訳。

「社内育児制度を利用して2人の子どもを育て上げる」

ネイティブに聞くまでもなくお客様に電話し「制度があってそれを利用しました」なんて当たり前。それを書くって事は制度が適正に利用されていないことを示唆することになるので止めた方が良い。と進言して受け入れられた。もちろんこの分は和英の字数にカウントしている。